コミュニティースペースMOKU1周年記念事業 
講演会「植物から学ぶ上手な生き方」

2020年12月、延期していたコミュニティースペースMOKU1周年記念事業講演会「植物から学ぶ上手な生き方」の内容について、咲くやこの花館 館長 久山敦さんにお話しを伺いました。
変化が激しいこの世の中を生きていく上で、私たちは植物から何を学べるのでしょうか。

講演者プロフィール


 ・  咲くやこの花館 館長 : 久山 敦


1947年兵庫県生まれ。英国王立キュー植物園留学を経て、兵庫県立淡路ファームパークの設計を手掛ける。
1988年より咲くやこの花館の高山植物室・ロックガーデンの設計、栽培指導として関わり、2007年より館長就任。豊富な知識と、ユーモアあふれる人柄から、TV・新聞等のマスコミにも多数出演。
世界の植物を求めて50か国以上を訪問している。著書『ヨーロッパ花の旅』(創文社)等、他多数。


植物から学ぶ上手な生き方



私たち人類の歴史を比較すると、植物は地球に現れて以降、非常に長い時間をかけて進化をして、生きてきました。
そんな生命力溢れる植物には、私たちが日々の生活を豊かにできるアイデアが含まれています。
まだ未開発の部分もあるのですが、私たちが「自然な姿」で生きていけるヒントを植物から学ぶことができますので、今回は「植物から学ぶ上手な生き方」をテーマにお話しさせていただきます。

この世を生き残るのは、変化(環境)に最も順応できるものである

そもそも「自然な姿」がどういうことかを紐解くためには、イギリスの科学者チャールズ・ダーウィン、が唱えた“origin of species”『種の起源』、を理解する必要があります。この本が書かれた1859年では、遺伝子のことは詳しく解明されていない時代だったんですが、現代でも通用する正確な理論を展開しています。この中で一番大事なことは「生き残るのは最も強い種ではなく、最も賢い種でもない。生き残るのは、変化(環境)に最も順応できるものである。」ということです。

例えば「食虫植物は虫を捕まえるんだ、賢いな」、と思われるかもしれないですが、本当に賢いのでしょうか?たしかに結果的に見たら、非常に優れた形で、工夫しているように見えるのですが、実は、世代一代分としては全く進化しておらず、世代交代の時に生き残れた(環境に適した)ものだけが「賢く」見えるだけなのです。場合によっては、それが一万世代、十万世代、世代交代した中で、このような大きな変化を遂げてきて、素晴らしい進化に見えているんですね。

食虫植物のネペンテス(ウツボカズラ)


コーヒーノキの幼苗を例に出すと、これを同じ時期に蒔くとしてます。このうち、最終的にどの個体が生き残るかには、様々な要因があるのです。風のきつい場所だったら、早く大きくなりすぎて倒れるかもしれない。個体は小さいほうが有利なのかもわからない。ただ、こういう「小さな差」が進化のもとになっていく要素になるんですね。

赤い実をつけるコーヒーノキ


もともとはここまで多くの種類の植物はなかったはずなんですけれども、様々な手法で様々な種の植物が生き残ることができたので鼠算式のように種類が増えていったのでしょう。当初は想像もできないような、小さなものが、今では大きな植物になっている…という可能性もあります。このように、植物の進化、多様化の過程を観察しているだけで「上手な生き方」のヒントがわかりますよね。

「ニッチ」とは自分だけの居場所を見つけること

生物用語で「隙間」をあらわした「ニッチ」という言葉で表現されます。
以前、ド根性大根で話題になったことがありますよね。アスファルトの細長い隙間にうまい具合に生えている大根ですね。あれ実はド根性でもなく一番良い場所なんですよ。 人が見たらかわいそうと思いがちだけど、あの場所って他の樹も生えない、日光は100%くる、しかも根は土の中にどんどん伸ばせる、という風な非常に環境の良い場所です。 他にも、海岸沿いは塩分に強い植物にとってはライバルの少ない絶好の特等席となります。
植物にとってのいい場所と悪い場所は、人間にとってのそれと全く異なることがよくわかりますね。


ちなみに、このニッチは、人間の世界でも色々利用されているわけでして、先人たちが気付かなかったようなことをうまい具合に発展させています。昔はなかったコンビニや宅急便、安価で好きなお寿司が食べられるような回転すしなど、うまい具合に隙間をぬって成功していることがありますが、こうしたアイデアも植物が教えてくれているのかもしれませんね。

植物たちの繁殖方法

植物をはじめとする生物は繁殖がうまくできなかったら生き残れないため非常に重要です。
そのため、人間の世界でも「モテないといけない」「気に入ってもらわないけない」そういったことがあると思います。

最近、とあるインターネットで「93%の女性が”いい香り”と回答した男性向けの香水」という広告をみかけました。実は私どもが育てているランの中に、ゴンゴラという南米の着生ランがあるのですが、このランにはシタバチというハチがその花に蜜を吸いにやってきます。その目的のひとつが、ゴンゴラの花にはシタバチの雌が好む匂いがあるんですよ。

雄は雌に気に入ってもらわないといけないので、一生懸命その匂いをつけるためにゴンゴラのところに出かけていきます。そうすると、その時に花粉をつけられてしまって、うまいことよその花に運ぶという仕掛けに乘ってしまいます。なんかねえ、人間も植物もあんまり変わらないんじゃないかなって、その広告を見て思ってきました(笑)

ゴンゴラの花とシタバチ

他にも、色々参考になるのがオニバスという植物です。日本の池でよくみかけることができる植物です。大きな葉っぱ(2m50㎝程度)になるのが特徴のハスで、紫色の花が咲いた後に種ができ、これが池の中に落ちて、また翌に発芽して花が咲くというようなサイクルで子孫を残していくのですが、落ちた種全部が発芽しないようになっています。だいたい50年くらいかけて徐々にどれかが発芽する、といった具合です。なぜこのようになっているかというと、例えば池の場合、ある日突如に水が抜かれるような事態があるわけです。そうした際でもいくらか生きた種を残すことができる、リスクに対しての備えと言うのでしょうか、このような仕組みがきっちりできているため、長い期間生き残っていけるというようなケースもあります。

水面に浮かぶオニバスの葉と種


特許料不要?植物から学べる実用的な仕組み

人間の世界では、新しく考えついたことに関しては、特許料を払ったりして、アイデアを買ったり、とられたりしないようにしているのですが、ここでアルソミトラという植物を紹介します。
この植物は、和名でハネフクベ。東南アジアで自生するツルをはる大きな植物ですが、ヘルメットみたいな大きな実ができて、その中にだいたい300枚くらい種がはいっており、この種の、一つひとつがグライダーのような形をしています。


グライダーのような形のアルソミトラの種


そのため、それぞれ一枚ずつ別の場所に飛んでいくような仕組みになっているのです。
なるべく親株から離れたところで発芽をするために、そういう風な進化をしているわけですけれども、この羽が意外にもグライダーのもとになるといいます。この形にエンジンをつけてアルソミトラ型飛行機というのが1910年にヨーロッパで開発されているんです。
ですからそういう、植物の持っている仕組み、それを特許料も払わずに、そのまま人間がいただいてしまう、という例もあるわけですよ。
また、マジックテープなんかも、植物の仕組み勉強して作っているため、同様のケースは他にもありますね。

ともに生きる、植物から学ぶ共生とは?

人間世界ではお互い助けあって生きていることはあたりまえのように行われていますが、 植物の世界でもいろんな形で助け合いがあります。

例えば、スミレです。スミレは石垣だとかアスファルトの隙間みたいなところ見かけますが、もともとあんなところにスミレはなかったはずなのに、なぜか意外な場所でスミレが咲いているという景色があるんですね。実は、気が付かないところでせっせせっせと働いているアリが関係しています。

日本にはたくさんの種類のアリがいるのですが、その中の21種類ほどがですね、収穫アリと言って一生懸命種を集めては巣の方へ持って行こうとします。植物の方から言えば、脚は生えていないので、他の場所へ広がっていけなか、場合によってはとんでもない所へ連れて行ってもらえるという、ありがたい話です。

道端で見かけるスミレ

でも、なぜアリがわざわざそんなしんどいことするのか?その秘密が種についているエライオソームという成分です。これは糖脂肪分やブドウ糖といった類のもので、この甘い成分を巣の方へ持って帰ろうとします。アリも途中で力尽きて、糖分だけ食べて置いていったりするわけですけれど、結果的にスミレの方としても適当な場所に運んでもらっていることとなり、うまい具合で助け合っています。


植物から学ぶ長生きの秘訣

ここで一番大切なこと、長生きをする秘訣を教えてくれる植物を紹介します。
「キソウテンガイ」という、名前からして変わった植物で、学術名はウェルウィッチアと言います。アフリカ南部のナミブ砂漠に自生している乾燥地の植物です。この場所は、少ないですが雨が降る時期があり、その時に地下20~30メートルくらいの深い水のあるところまで一気に根を伸ばし、水分取って生きています。

自主地でのキソウテンガイ

この植物をC14という手法で年代測定をすると、なんと2000年超す株があることがわかりました。咲くやこの花館でも60年くらい育てている株があるのですが、まだ少なくとも1900年近く生きていけます。まあ、羨ましいとも思わないぐらい長く生きていけるんですよね。

他にも、こういう長生きしている植物をみると、屋久島の屋久杉が有名ですね。屋久杉は島の山の上の方の植物ですが、この場所、実は雨が多くて土の養分が流されてしまうため、栄養の乏しい土壌ですが、こういう場所でゆっくりと育ち大きくなっているのです。


屋久島のヤクスギ


他にも北極圏の植物などのように、非常寒い環境であったり(反対に暑い場合も)、養分が少ない環境など、そういう“ないないづくし”のところで植物は長生きをしているんです。逆を言えば、畑の植物は、これは人間の都合なんですけれど、早く収穫して、早くおいしいもの食べたいという理由があるため、できるだけ環境も良くしてあげる、水もあげる、というような環境になってきたらですね、長生きとはまた反対の方向へ行っております。
このように比べると、少し粗末に生きていった方が長生きできるのだということを、植物から警告されているのかなと感じます。


菅原生涯学習市民センターのMOKUで使われているに木材ついても同じことが言えますね。やっぱり良い材木っていうのは、成長の遅いものがいい材木なんですね。
もともとは乾燥地の植物でユーカリという大きな木があります。自生地のオーストラリアでは非常にすばらしい木で、だいたい200年くらいかけて柱になる様な大きな木ができます。本来は雨があまり降らない、育ちにくい場所で生きていたので、年輪も細かく非常に硬くて、枕木にも使えるし、おうちの柱にも使えるとても有用な木です。


日本で育ったユーカリ


ところが、これを日本で育てると、現地に比べて雨が非常に多いためか、とても早いスピードで大きく育ちます。ですが、実際は中身がスカスカでパルプの材料にするくらいしか使い道がなくなってしまいます。
さきほど紹介した屋久杉もなかなか成長が遅いので、年輪の細かい、丈夫ないい木になっているんですね。そういう意味で考えたら、厳しい環境に身を置く意味を改めて感じます。

MOKU室内はスギ・ヒノキを使用

最後に

「環境や変化も適応すること」「自然なでいること」「ニッチ(自分の居場所)を見つけること」…そんな私たちが日々の生活を送る中で、見落としがちな大切なことを植物は教えてくれているのではないでしょうか。ここで紹介した植物以外にも、興味がある植物があれば、ぜひ調べてみてくださいね。もしかしたら、意外な発見や学びがあるかもしれません。この記事が、あなたの生活や人生を少しでも豊かにするきっかけとなれば幸いです。

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