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NO.0034

連載「民藝」をめぐる4人の陶芸家たち

~濱田庄司②

公開日 2020.8.3


連載6:濱田庄司② 英国で始まる

1920年(大正9)6月、濱田はリーチとともに渡英しました。英国での陶芸活動を選んだ理由について濱田は、西から東を見ること、リーチと一緒に働いて身近で学ぶこと、大英博物館やヴィクトリア・アンド・アルバート博物館などを見ること、田舎の住居や教会、そして人々の暮しぶりをゆっくり勉強してみたかったと述べています。

英国の地を踏んだ濱田はまず二週間をかけて、ひとりでロンドンを見て回ります。ロンドンでは、17世紀のトフトウェア、18世紀のスリップウェアといった伝統陶器に出会い深く感銘を受けます。すでに渡英以前の1916年(大正5)、奈良の富本憲吉を訪ねた際にチャールズ・ロマックス著『風変わりなイギリス 古陶(ことう) 』を見せてもらい、異国の古い陶器に魅了されていました。リーチが母国の陶器を知ったのも富本のこの本でした。濱田はイギリスの古陶に学び、自作の形や文様に生かしていきます。

同年9月になると、リーチとともにセント・アイブスに向かいます。濱田はリーチと共同で 登窯のぼりがま) を築いたり、土や薪を探したり、釉と灰の組合わせの試行錯誤を繰り返すといった日々を送り始めます。土については適当なものがなかなか見つかりませんでした。きっかけは錫鉱山で地下トンネルを見学した時でした。土中深くに降り、地層をひとつひとつ調べていきますが、思うような土はありません。ふと、案内役の坑夫が被る帽子にロウソクが泥とともに付けられているのが目にとまりました。その泥を触ると、非常に粘り気のある土で、「これだ」とリーチと二人で喜び合ったそうです。その土は地元で昔から鋳物に使っていた土でした。二人が求める陶芸のために必要な土と薪と灰が揃った時には英国に来て一年が過ぎていました。

セント・アイブズに暮らし始めて二年目の秋、二人はスリップウェアの復元に成功します。きっかけは食卓でのことでした。ある日、パンにバターを塗って、その上に自家製のブラックベリー・ジャムを厚く盛り、さらに地元産の濃いコーニッシュ・クリームを横縞に流した後、ナイフを入れるとスリップウェア同様の黒と白の矢羽根型模様ができました。二人はさっそく二種類の 化粧土(けしょうつち) で試し、「 羽描(はねがき) 」という失われていた技法を蘇らせました。
濱田とリーチの収入源はロンドンや東京のコレクターたちによる作品購入でした。二人は精力的に仕事をしましたが、作品の仕上がりに満足のいかない時もありました。画家が自作の不出来に満足できず、作品を破り捨てることがあるように、二人も陶器に石を投げつけて壊すことがあったようです。

英国の田舎での暮らしのなかで、濱田は古い教会、民家の建物にも深い感銘を受けますが、日常的に使用している工芸品や、伝統的な古陶を通じて、工芸と生活との関係の深さを見出していきます。とりわけ、ウィリアム・モリスのアーツ・アンド・クラフツ運動の流れをくむ、サセックス州ディッチリングの芸術家村に赴いた際、染織家エシル・メーレや彫刻家エリック・ギルらの田舎での健康で自由な生活と仕事ぶりに感銘を受けます。濱田は二人の芸術家の生き方について次のように述べています。

「仕事にも生活にも信念がはっきり出ていて、そして落着きがある。信念がはっきりしているだけならば頭の問題だけでも済むが、落着きがあるのは、後ろ立てに拠りどころあるよき生活がなければ得られないと思う。」(『無盡蔵』、143頁)

芸術家村の彼らの暮しのすべてが芸術活動の基盤であり、田舎の健やかで落ち着いた暮しから優れた工芸品が生まれるという認識に至ったのです。そして濱田は、帰国後は彼らと同じように田舎で作陶生活を送ろうと決心します。濱田が自身の生涯を振り返り、「イギリスで始まった」とする約三年間の異国経験は、今後日本で陶芸家として生きる上での理念や創作態度を固めさせたと考えられます。

濱田は1923(大正12)年4月、初個展をロンドンのパターソンズ画廊で開催し、好評を得ました。同年9月、関東大震災が発生、これを機に帰国を決意します。12月に再度同画廊で個展を開き、作品はほぼ完売し旅費を得ることができました。クリスマス前にロンドンを発った濱田は、途中フランス、イタリア、シシリー島、クレタ島、エジプトなどに立ち寄り、1924(大正13)年3月末、日本に帰国しました。

《主要参考文献》
濱田庄司『無盡蔵』朝日新聞社、1974年
濱田庄司『浜田庄司―窯にまかせて』株式会社日本図書センター、1997年
鈴木禎宏『バーナード・リーチの生涯と芸術――「東と西の結婚」のヴィジョン』ミネルヴァ書房、2006年
バーナード・リーチ『東と西を超えて 自伝的回想』福田陸太郎訳,日本経済新聞社,1982年
水尾比呂志「陶芸家濱田庄司の文藻」(濱田庄司『無盡蔵』講談社文芸文庫、2000年所収)
水尾比呂志『現代の陶匠』芸艸堂, 1979年
『炎芸術』No.104、2010冬「特集 濱田庄司 美のモダニスト」、阿部出版

【投稿:スタッフM.K】